短々編『ベーコンポテトパイ』
1000文字小説『ベーコンポテトパイ』
ベーコンポテトパイもレギュラーメニューになればいいのに。こんなに美味しいのに限定なんてマクドナルドは頭悪いのかな、いやたまに食べるからこんなに美味しいのかも。
iPhone11に表示されてる時間は13時くらい。まだお昼時といってもいい時間なのにカウンター席は私以外誰も座ってなくて快適なはずなんだけどどこか居心地が悪い。お昼のマクドナルドってもっと混雑しててうるさくて店員さんが疲弊してて……そういうマナーがある無秩序みたいな空間だったのに、この1ヶ月でだいぶ穏やかになっちゃった。別に残念とか全然そういうのじゃないんだけど、なんか嫌だ。
最後の一口を口に投げ込んで、箱の両口を広げてぺちゃんこにつぶす。気にしたことなかったけど、ベーコンポテトパイの箱ってこんなデザインしてたんだ、なんかウケを狙って完全に滑ってる感じ。
窓の外に広がる街も今はなんだかとても居心地が悪い。いつものこの街は人は多いし、変な人も多いし、ナンパは多くてしつこいし、とにかくうるさいし、臭いし、そして汚い……全然いい街じゃないんだけど、そんな街が私は大好きだった。飲みかけのコーラをストローで吸いながら眺める今の街は人もいなくて、変な人もナンパもいなくて、静かで臭くないくて、綺麗な街になってる。人がいなくなって街の汚れが洗い落とされたのかな。綺麗になっていくこの街を私は好きになれない。同じくらいの顔面偏差値だった友達が大学生になって急に可愛くなってくようなそんな置いてかれるような疎外感、せめてこの街は私と同じくらいにちょっと汚れてて欲しいな。
私から離れている街にiPhone11のカメラを向ける。じゃらっと音を立ててシルバーのシャネルのストラップが揺れた。その中に私が小さく反射する。向こう側の私は昼時のマックの店員のような疲れた顔をしていた。シャネルのマークと目があった時、お前はブランドで着飾ったところで綺麗にはなれないんだよって言われた気がしたけど、そんなこと知ってるし!綺麗を演出するのは得意なんだけどね!
カメラが立ち上がったのを確認してちょっだけイライラした気持ちそのままにシャッターを切った。機械的なシャッター音が閑散としたマクドナルドに響く。やっぱり居心地悪いし、なんか恥ずかしい。
加工せずにそのまま写真をイツメンのグループラインに一言付け加えて送り付けた。
『人が全然いないねー』
既読の文字はつかない。昔はすぐに返信が来てそのまま現地集合で楽しいことを朝までやってたのに卒業した途端に会うことが凄く減った。社会人ってそんなに忙しいのかな、今はテレワークとかで暇してると思ったんだけど。ポケーっと眺めるスマホの画面に『既読1』の薄い文字が表示された。だけど言葉が送られてくることはなかった。
なんだかここも、居心地が悪い。
1158文字 1時間
教訓:連絡先は聞こう。
大学生の時にナンパといいますか、お声がけさせていただいた女性で……いやこれはナンパですねすみません。
ではあらためて、大学生の時にナンパしたお姉さんがとてもウィットに富んでて面白い方でした。といっても酔った私は鶏以下の暗記力になってしまうので具体的にはあまり覚えてないのですが。そのときに彼女がおっしゃっていた「私は綺麗ではないけど、綺麗を演出できる」といった言葉を聞いて酔いが覚めました。突然シラフに戻るとそれはなかなか恥ずかしいものでして「今の言葉めちゃくちゃいいですね、メモってもいいですか、てか連絡先交換しましょうよ、てかこのあと二次会しましょ二次会」ということも躊躇われまして、その言葉が消えないように頭の中に濃く殴り書きしました。
ま、自分は綺麗じゃないっていう女性ってだいたい綺麗なんですけどね。ただ女性に見えている綺麗、目指している綺麗って終わりがないものでそれに向き合い挑戦している方は顔の造形関係なしにとても魅力的です。
冷静になると私は童貞もびっくりの雑魚チキンと化しますからなんお連絡先も交換せず、それも奢ってもらうという。年下男子の方程式に則った対応だったのかもしれませんが、いやー後悔が残る!!!人として魅力的な方でしたから、もちろん異性としても。
またそのお姉さんとなぜかベーコンポテトパイの話をしたのを覚えています笑。最近ベーコンポテトパイの昇りを見かけてとても懐かしい気持ちになりました。あの時はこんな会話をしたはずです。
「あんなに美味しいベーコンポテトパイはずっと売っとくべきですよね?」
「んー、それはダメ、期間限定だからいいの」
好きなものを好きなだけ。そんな貪欲だったあの時の自分(しかしシラフ時は鶏)
今は期間限定のベーコンポテトパイを愛せるまでに成長しましたよ、お姉さん。
合計2000字