深夜に灯る明かりは酔いどれの人々を誘う怪しい光。
線路を叩く音が聞こえなくなった深夜1時すぎの週末。濁ったネオンに照らされる夜の街は酒とタバコの余香で満たされ、昼間には想像もできないほどの猥雑な景色が広がる。
誰かに捨てられた煙立つタバコを足先で潰し、あたりを見渡すと酔いつぶれた老若男女が道路脇に点在している。吐しゃ物と一緒に仲良く鎮座しているその光景は本格的な夏が近いことを意味する。確かに今日は涼しい。そのまま一夜過ごしても、風邪をひくことはなさそうだ。そういや梅雨の姿もどこへやら。今年は降水確率50%という曖昧な表現に悩まされたけど、結局あまり降らなかった日が多かった気がする。おかげで雨に備えて共に闊歩したビニール傘は気づけば何本も一人旅に出てってしまったようだ。そもそも50%なら、天気予報のお姉さんも素直に「わかりません」って言ってもいいのに。
で、こんな深夜に私はなにをしているかというと〆のラーメンを探していた。
ラーメン。万人に寵愛される逸品。ガバガバ飲んだ後に本能的に口が欲するモノ第2位(1位は水)。今日はどこにしよう。
群れのように行動するアウトローなお兄さん(岡崎体育を怖くした感じ)と可愛くセクシーなお姉さん(ショートデニムいいっすね)の誘いをうまくかわして、たどり着いたのはここ。
https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130501/13043644/
白濁豚骨スープ+固め細麺+きくらげ+替え玉
=神
これが豚骨ラーメンの方程式。なお深夜という条件も相まって美味さ数値は「×2」されている。そして早いし(出てくるまで1分前後)、安い(500円 替え玉一回無料)から文句なし!
最近はインスタ蠅がたかるようなシャレオツなラーメンがブームだが、変に飾らず素直な姿をしたこのラーメンこそ今宵胃袋が求めていたメシに違いない。
今にも喰らいそうな勢いだが、私はむやみやたらにがっつかない。
なにより最初は「いただきます」
これができない人はそこらの犬と変わらない。
まずはレンゲを手に取る。
油が反射する白濁スープを丁寧に救い上げ、そっと口に運ぶ。鼻から豚骨の臭みが流れ込み、舌の上で旨味と合流する。そのまま喉を通って落ちていくと、「はぁ…」自然と息が漏れた。うめぇ。
箸に持ち替え、麺をすする。
細く、長く、固く。まるで切っても切れない腐れ縁のような麺。
すする、すする。夢中ですする。
スープから顔を出す麺の量が少なくなってきたら替え玉を頼む。
そしてまたすする、すする。
早い、美味い、安いの三つ巴。
大満足。
ごちそうさまでした。
500円玉を店員に渡し、店を後にした。
火照った体に当たる夜風が気持ちいい。
手持ち無沙汰にインスタグラムを開いてみると、友人がホテルディナーを楽しんでいた。
赤ワインがテーブルには用意され、窓の外に広がるのは光の宝石で装飾された夜景、そして隣で微笑む幸せそうな彼女。おぉ、なかなか羨ましい週末の夜をお過ごしのようだ。
スマホをポケットに押し込み、夜空に一人ため息を吐く。
ジャンキーな夜食、ガムがへばりついたアスファルト、やつれたリーマン。
そう、あそこは深夜のラーメン屋。
あるのは500円で買える「満足」だけだ。