一目惚れ
一目惚れなんて漫画の世界を現実に重ねてしまった痛い子が患う病だと鼻で笑っていたけど、中二病という持病を持っていた当時の僕はものの見事に一目惚れ罹ってしまった。
しかし残念ながらここから惚気話に発展はしない。この話は一目ぼれをしたその一瞬だけで完結する。たしかに”運命的な出会い”だったのかもしれないが、その後急接近する出来事は起こらず、隣の席どころか同じクラスにさえならず、なんなら会話を交わすこともなかった。所詮目が合っただけと気持ちの高鳴りに耳を傾けず、だけど密かになにかをただ待ち続けていた中二病がやっとその腰を上げたころには、その恋は終わっていた。
なお、これは私の話をではない。
「勇気がなくて話しかけられなかった」だけの酒の席で聞いた友人のしょーもない思い出話を私なりに脚色した。その気持ち分からんでもない。
言葉にしなかった気持ちはどこにいくのだろうか。
もし言葉にしてたら、あったかも知れない世界。
よく分からないことをぶつぶつ呟く友人を脇目に、俺はお構いなしに〆のラーメンをすする。