淡々と、かつ着々と。

やるせない26歳が綴るこれは独り言

暗闇から聞こえる死の呼吸 / 黒い家(貴志祐介)

 暗闇から聞こえる死の呼吸 / 黒い家(貴志祐介

 

サイコホラーをみなさん読みますか?

ジャンルを問わず何でも読む私なんですが、特に好きなジャンルは性癖に刺さったライトノベルと恋愛作品とサイコホラーなんです。極端な好みのせいで私自身がサイコパスみたいですね。

 

今回はサイコホラーについて少し語ろうと思います。。

まずホラー小説って凄く書くの難しい。

考えてみてほしい。あなたは文字だけで恐怖心を煽れますか?

映像作品なら違和感に満ちた「間」に怪しい環境音⇒突然の無音の演出を入れて、タイミングよく2足歩行の幽霊が急ブレーキ音みたいな叫び声と共に出現すれば、まぁ恐怖は感じる。(最近はドッキリ大会みたいなホラー映画ばっかり)

そういった小手先テクニックが一切使えないのが小説である。なので、このジャンルは作者の筆力がはっきりと確認できるジャンルだと思っている。

 

 

今回紹介するのは貴志祐介さんの「黒い家」なんですが、この貴志祐介は皆さんも知ってる作品の原作者かもしれません。

 

 

貴志さんの代表作①「悪の教典

最近だと実写化された「悪の教典」の原作者さんです。担任教師の蓮見(通称ハスミン)を演じる伊藤英明のサイコっぷりが最高にクールでした。原作のあの終わり方は…続編期待できそうですよね。狂気に満ちてたいい作品でした。調べてて初めて知ったんだけど、直木賞候補になってたんだ…

mv.avex.jp

 

貴志さんの代表作②「新世界より

あとは独特の作画で賛否両論だったアニメ新世界より貴志祐介さん原作です。

これめっちゃくちゃ面白い。語彙力が崩壊しているような紹介の仕方はご愛嬌。ネタバレなしでぜひ読んでほしい。ジャンルとしてはSFなのかな、ジャンルの情報ですらネタバレになってしまいそうで怖い。

世界観は少し堅苦しいので、難しい話は苦手って人は漫画版もあるのでぜひ手にとってみてほしい(絵が可愛い&セクシー描写が多いからおすすめ)

www.tv-asahi.co.jp

 

 

「黒い家」

この「黒い家」は今から22年前の1997年に発表された作品です。

生命保険会社に勤める若槻慎二はある日、一本の電話を受けた。「自殺をしたら保険金が下りるのか」電話の向こうから聞こえてくる弱々しい声を聴いて若槻は善意から余計なことをしていまう。悪魔が住む黒い家に招かれていることも知らずに。

 

あらすじを自分で考えて書いたけど下手くそだな笑

この小説の秀逸なところは主人公と同調できるところだと思う。目の前に現れる恐怖、拭いきれない違和感、見えない地獄から逃げる緊迫感。そういった若槻の心情がダイレクトに読み手に伝わるため、物語世界がとても近いものに感じることができる。

特に中~終盤のどんでん返しは読んでいるこっちも息が止まる。○○が○○だって気づいて、あ、じゃあ〇〇も〇〇だったんだ。ってことは…〇〇は…。と真相の理解と共に恐怖心に駆られていく気持ちを体験してほしい。

また貴志自身が生命保険会社に勤務していたこともあって、生保業界のリアルな内情が描かれる。フィクション感が強くなりがちなホーラー小説の世界観がリアルと繋ぎ合わされ、彼の経験が強固な物語世界の土台になっている。 

 

ネタバレなしでただ一つ言えることは「心霊現象はありません」

これがやっぱりサイコホラーの凄み。「呪い」「」なんて単語を連発すれば、反射的に人は連想ゲームを始めて勝手に恐怖の溝に落ちていきますが、サイコということは全ての始まりは生身の人間。その所詮人間ごときがどこまで狂えるのか。そして行われる残虐な場面をどこまで写実的に生生しく書けるのか。まさにそこが作者の腕の見せ所。

目の前に広がるのはただの文字の羅列なのに、進むにつれ脈拍が上がり、胸のあたりがむかむかしてきたらそれは最高のサイコ(ダジャレ)。たまに「この人、マジで人を〇したことあるんじゃないの」って程、リアリティに満ちた世界を文字だけで作りあげる人いるけど、一定の凄みを超えちゃって逆に恐ろしいよね。想像力とか才能で片づけられない一種の怪物的恐怖を感じる。だがそんな作品に出会えた時は恐怖すら愛おしい。

 

甘美な恋愛物を読み終わった後は、スパイスが効いた作品も頬張りたくなるものだ。

 

 

「『善意で踏み固められた道も、地獄へ通じていることがある……』」p.200

 

「他人を食い物にして生きる人間には、えてして獲物の心の弱みを嗅ぎつける独自の直感が備わっているものである」p.268