淡々と、かつ着々と。

やるせない26歳が綴るこれは独り言

レモンサワー

 レモンサワー

お酒を飲まなければ。やり残した仕事から逃げるように暖簾をくぐる。壁のシミ、すり減った床、重い油の香り、現役のブラウン管テレビ、角が茶色く変色した本日のおすすめ、良く言えば“趣がある”、悪く言えば“汚い”のだが、それらが通な居酒屋を演出しているようで嫌じゃない。くぐった先には無精髭を生やした店長が新聞片手にお笑い番組を見ていた。ふと目が合うとそのまま視線で座る場所を指定された。レジ横4人テーブル席。

 「いらっしゃい」

ぬるいおしぼりと6割程度しか入っていないぬるい水。これもまた趣がある……いやいや“趣”を都合よく多用してはいけない。流石にここはしっかりしろよと思いながらメニューに手を伸ばす。それがベタベタしているなんて今更すぎるからもうなにも言わない。

 夕食はラーメンチャーハンセットで決まっている。そして今日は金曜日、さてなにを呑もうか。

 メニューをひっくり返すと最初に目に入ったのは「生」の一文字。異常に大きく書かれたそれは1杯目の看板と圧力的な義務感を帯びている。ああ、躊躇いなく飲みのルールに従って「生」を頼めたなら私は1杯目に悩む時間×日数分の時間を有意義に過ごせたことだろう。しかし私はビールがとにかく苦手なので「とりあえず生」を唱えない。だからといって代替品となる好みの酒があるわけでもなく、というかそもそも酒があまり好きでもなく、そんな中途半端者は日毎にいろんなお酒に手を出しては愚鈍に週末を浪費してきた。

ハイボールで始めるか。ならコークハイ……いや、普通にレモンサワーでもいいんだけどこの前が酷かったから……」

 忙しない独り言はテレビの音にかき消されて誰にも聞こえることはない。この前注文したレモンサワーはほぼ焼酎サワーだったから、レモンサワーは選択肢にない!今日は他のを飲もう!と反骨的に意識していると逆にレモンサワーが飲みたくなった。何もないテーブルに結露したグラスが見える。溢れんばかりの氷が涼しく鳴る。しゅわっと弾けた中から見つけるレモンの酸味。静かに広がるのは果実の甘味。そして鼻に抜ける酒の風味。それがレモンサワー…べっ、別に好きなわけじゃないんだから!

「すみません」

 決めた。もう俺は決めないことを決めた。次に頭に浮かんだものを注文しよう。たとえそれが「生」であったとしても。

 おっさんは新聞を乱雑にカウンターに放置して、手ぶらのままやってきた。

「はいー、どうぞ」

 俺は小さく息を吸って唱える。

「えー、ラーメンチャーハンセットと……」

 沈黙。刹那の瞑目。集中しろ集中しろ、次の一瞬で今日の相手が決まる。カッと見開いた目がドリンクメニューに落ちる。開かれた世界にまず飛び込んできたのは太いシルエット「○」!

(まずいッッッ!)

 理屈ではない、本能が理解を拒む。脳信号が飛ばされる前に俺は声を出していた。

「レモンサワーで」

「あいよ」

俺の花金始まった。

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一言エッセイ

金曜日ってお酒を飲みたくなりますよね。って平日の火曜日に投稿するって嫌味か貴様!と言われそうですが笑

ところでいつから私たちは「ご飯食べに行こうよー」から「飲みに行こうよー」に誘い文句が変わったんでしょうか。それに気づかず未成年に「飲みに行こうぜ」と犯罪宣言をしてしまいました。危ない危ない。

ある程度歳を取るとこの''誘い''にも様々な含みがあるようで、ただご飯のつもりで誘ったらなんか不機嫌になる人がいたり、また下心ありありで婉曲的に誘ってみるとそれはそれで不機嫌になる人がいたり、全くよくわからない。

しかしこの誘いこそモテ男のセンスが光る部分です。きっと彼らは誘いの入り口作りから現場の雰囲気演出、そして最後のフォローまでの一連の作業がとてもうまいのです。私は前半喋りまくって、中盤飽きてきて、後半アルコール頭痛が酷くなって黙るというとんでもなく酷く一方的かつダサい男なので、まずはスタートダッシュ形の喋り癖を直すところから始めたいなってこんなブログ書いてる限り無理な気がしてきました。グッバイ!(髭ダン

 

来世は北村一輝になりたい。