黄色の梅沢富美男
こだわり酒場のレモンサワー
四季の中でもなにかと持ち上げられがちな夏は学生の姿が1番映える季節だ。彼らが送っている“青春”は、春と書かれているのになんだか夏の印象強い。列に並んで電車を待つ私の気持ちも未だ青春真っ只中なのだが、名刺入れで不格好に膨らんだチノパンとシワだらけのワイシャツ姿では対岸の彼らに混ざることはできない。23歳の夏に青春と名付けてもいいのだろうか。きっとこの逡巡や躊躇いが「もう若くないし」という言い訳に向かわせるんだろう。爽やかな夏を横目に、私は通勤快速日常行の電車に乗り込む。
『飲みにいかない?ビアガーデンで』
手元のスマホが震えた。“OK”を意味するスタンプで返信を済まして顔を上げると、ふと1枚の中刷り広告が私の目を引いた。真っ黄色な梅沢富美男がレモンサワーを宣伝している。
いつから誘い文句は「飲み」になったのだろう。未成年だったころはビクビクしながら使っていた「飲み」の言葉も二十歳を迎える前に板についた。今では「飲み」を抜きにして交流をすることの方が難しい。飲みに頼れなかった、それこそ青春を送っていたあのころはなんと言って友人を誘っていたのだろう。「カラオケ行こう」「映画見よう」「ご飯食べよう」思いつく台詞はどこか他人事で距離を感じた。思い出せない言葉と消えていく青春、なんだか今日は朝から感傷的な気分になっている。懸命に英単語帳を開いている高校生たちはきっとレモン姿の梅沢富美男に気づかない。私はもう梅沢富美男に魅かれてしまう群衆の一人だ。「レモン堂の方が好きなんだよなぁ」と無感情で眺めながら、帰りにレモンサワーを買おうなんて決心がその日のモチベーションになってしまう程度の大人だ。
……
これを書いたが約1年前。下書きの中に埋もれていた記事を加筆修正した。
オリジナルは書いた私が引くレベルで鬱々としていた。眠らせておいて正解。
だが、あのころの私は気付いてない。
物足りなくて満ち足りなくて満たされない、不信、不安、不満。
その自分への反骨心こそ若さの証明、そして私が過ごした青春に1番近い。
もうポカリスエットと制服が似合う年齢ではないが、
レモンサワーとよれたスーツで私はいま第二の青春を過ごしている。
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