【あゝ…これは塩】「桑ばら」の塩そば【池袋】
鼻筋を通って一滴の汗が地面に落ちる。
身を焦がすほどの熱を持ったコンクリートジャングルの中を私は彷徨い歩く。大量の観光客が荷物と共に地面に根を生やし、雑木林のごとく前に立ちはだかる。私はそこを搔き分けながら前進していくと、信号を挟んだ向こう側に「サンシャイン通り」のアーチが見えてきた。目の前の光が涼し気な青色に変わり、人々は規則的かつ流動的に前へ漂っていく。その波に体をまかせプカプカと前へ流されながら、私は今日のラーメンに思いをはせていた。
暴走する発汗作用、滴る大粒の汗、染まるワイシャツ、白く浮き出る塩…つまり今日の気分は「塩ラーメン」!池袋(また池袋かよとか言わない)の塩ラーメンと言ったらここでしょ。とサンシャイン通りを一本裏に曲がると見えてきたのは【24h Times】……の上から顔を出す「塩そば 桑ばら」の文字。
外にある券売機で券を購入してから店内に入っていくスタイル。本日の裏そば「ノドグロ冷やし中華そば」もとても魅力的だけど、今日は「塩」が欲しいのだ。「塩そば ¥800」のボタンを迷わず真っすぐ押す。券売機周りに貼られたポスターの賑やかさを見ても分かる通り、このお店はなかなかクセが強い(色々な意味で)。
店内は昼時ということもあってほぼ満席だ。上着を足にかけて麺を頬張るリーマンに挟まれながら、私は丸椅子にゆっくりと腰をかけた。
塩そば専門店 桑ばら 【池袋】
塩そば ¥800
美しい…ここはかつて黄金の国ジパングだったと思い出させる黄昏色のラーメン。表面に浮かぶ油が斑模様を成し、輝くスープにコントラストを付けている。
「いただきます」と呟き、レンゲですくう黄金郷。
レンゲが舌先に触れた瞬間、味覚は一方向に傾倒しその暴力的な味に体が震える。あーーー
しょっっぱっッ!(塩)
しょっぱいのである。これはもう10人が食べたら10人はしょっぱいと心の中で呟く、または叫ぶだろう。これがまさに「塩」ラーメン。「塩」という言葉を繕った海鮮ラーメンやら、タンメンやら有象無象が横行している塩ラーメン界だが、ここまで「塩」を前面に出してくる塩ラーメンはない。故に好みがとても分かれる。だってしょっぱいんだもん。
味も見た目も着飾らないラーメンがカッコいい。
麺は固めでちょい細めストレート。強いコシが顎を動かすたびに伝わってくる力強い麺だ。そして味はもちろん「しょっぱい」。これでいい、これがいい。
具は海苔と厚切り炙りチャーシューと大変シンプル。
海苔の上に乗っている粉末は「帆立の粉」で、溶かすと塩一色だったスープが少し濃厚になる…気がする。全体に溶かしてしまうと塩味に隠れてしまうので、スープが少し減ってきた後半に溶かすか、粉末をすくい上げるように麺を持ち上げ一緒に味わうのがよい。
厚切りチャーシューは見ての通りとてもボリュームがある。人差し指の第一関節くらいの厚さがある。今にも切れそうなペラペラチャーシューをドヤ顔で「チャーシュー麺」として提供する店に見せてやりたい。黄金スープに浮かぶお肉はメインディッシュのように堂々としている。力を入れて箸で挟み、口に近づける。噛み切るのに力が必要かと思ったが筋にそって素直に裂けていった。肉が肉だということを忘れない程度の優しい固さを奥歯で感じていると、やはりここでも「塩」が顔を出してくる。肉と塩。もちろん合わないわけがない。
塩を欲する環境が整っている【塩を出して、塩を得る】
ただひたすら塩を感じる。塩を取る。塩を得る。
「塩分過多にならないか」と心配のあなた。そこについては全く問題ない。
店がめっちゃ暑いのだ。
(クラ―がなく、外との仕切りなし、唯一の救い扇風機)
だから汗として塩は絶え間なく体の外へ出続けているのだ。つまり店内にいる限り、体は流れ出た塩分を取り戻そうとひたすらしょっぱさを欲している状態に保たれる。生命本能に答えるように私は麺を啜り、スープを飲み干す。
これは夏を生きる人間の本能に呼びかけるラーメンだ。
ごちそうさまでした。
※ほんとに好みが分かれるラーメンです。「美味しいラーメン屋知ってるんだ」と相手の好みを察せずにアバウトな説明だけして連れていくと人によっては反感を買います。
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