気づくのが遅いから。
気づくのが遅いから。
「今更TOEICの勉強をしたところで何になるのだろう……」
今日もまた流れる英語の音声に集中し、聞こえてくる音を文字に書き起こす。
やはり私はいつだって気づくのが遅い。後悔してから手を伸ばすことがほんと多くて、そして結局なにも掴めない。その後悔に気づけただけでも立派だと過去の自分を正当化して、悔しいと思う気持ちに苛まれることなく納得してしまう素直さも昔から変わらない。
そんな私にとって大人の世界は厳しいようだ。なんて言っているけど、別に大人を軽視していたわけではない。ただ、もっと大人の世界はもっと大人しているものだと思っていた。実際は自分の人生を生きることに精いっぱいで、誰かを助けている余裕なんてないようだ。だから柵が外れた夜の街を跋扈する大人の姿を見ると、私利私欲のまま生きている下品な生き物に見えることがある。だけどその姿は生物として正しいのかもしれない。
強いものが弱者を食らう。弱肉強食の世界に平等なんてもの保障されない。すでにこの世は時間すら平等ではないのだから。だからこそ争いに勝ち抜くことが大切なんだと思った。そのために必要なことは、自負できる知識、自分にしかない経験、そして誰よりも自分を信じることができる自信。
って、やっぱり気づくのが遅い。そんなことはみんな知っている当たり前のこと。やっぱりみんなの一歩……いや何十歩も後ろを歩いているんだなぁと思いながら、耳に注がれ続ける英会話を止める。
繰り返し聞いたその音はゆっくりと私の身に沁み込んでいるのが分かる。だけど、それが芽を出すための水になっているのかはわからない。なにが自分のためで、何が正解で、どうしたら幸せになれるのか。なにもわからない。
微かに聞き取れるようになった「I'll」の音を何度も口ずさむ。
そんな些細な成長を喜んでいる私はやっぱりまだみんなの百歩後ろにいるんだろうな。
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