近所の猫がいなくなった
今週のお題「ねこ」
青空に尾を伸ばしながら堂々と歩く猫。その後ろを汚れたサンダルでこっそりついていくそんな幼い日の思い出。
当時私が住んでいた家の周りには沢山の野良猫がいた。沢山といってもやかましい数が一同にに集会を開いているとかではなく、一日2,3匹くらい見かけるけどいつも違う猫だな程度に沢山の猫がいた。
猫たちが集まる先は決まっている。私の家のお隣さん、同じ苗字のおばあさんがいる庭だ。老後を淡々と過ごすおばあさんは餌を庭に準備して毎日佇んでいた。縁側に腰をかけるおばあさんの足元にはいつも2,3匹の猫がいて、手を伸ばして愛でることもなくただその景色を眺めて過ごしていた。そんな空間で幼少期を過ごしたものだから、昼夜問わずニャーニャー聞こえてくる鳴き声も生活音の一部になっていた。
制服の丈も短くなってきたある日、おばあさんの家の取り壊しが決まった。介護施設に入ることが決まり、家は土地ごと手放すことにしたらしい。工事が始まると鳴き声はピタリと消えた。昼間は重機の唸り声に囲まれ、夜はなにか物足りない静寂が私の家を包む。でも変わらず猫たちは近所を徘徊してて、どこへ向かうのだろうと後を追ってみると、なにもなくなった更地に、餌が置かれていた位置に、あばあさんがいた場所に3匹の猫が集まっていた。だけど鳴き声は聞こえてこなかった。
跡地に新築アパートが建つころには猫の姿は見なくなった。そして生活の一部から猫が消えた。特に飼っていたわけではないけど、こうしてふと思いだす時がある。あの猫たちはどこにいったのだろう。もし堂々とした後ろ姿をもう一度見かけたら、私は今でも汚れた革靴でその後ろを追いかけるだろう。
夏目漱石のお墓🙃
700字 10分