淡々と、かつ着々と。

やるせない26歳が綴るこれは独り言

卒論、それは苦しい

『いやー……若いつ…なんですけど、体が…って。右肩…ねぇ。それ……はお便りいきましょう、…はラジ…ネーム…さんからー』

 

耳に意識が移り始めた時、それは集中力の限界を意味する。凝り固まった指先をぐっと前に伸ばすともう一つの音が入ってきた。忙しなく窓を叩く雨粒たち。どうやら今日は止みそうにない。築20年鉄筋コンクリートの角部屋202号室、ここには雨とラジオとため息しかいない。

「終わらねえよ、こんなの……」

目頭をぐっと押さえると瞼に溜まっていた血液がじわっと溶けていくのが分かった。ぐりぐりと眼球を揉みほぐしてから、ゆっくり開かれた視界の先には見慣れたディスプレイが無言で鎮座していた。

画面右下には”19000文字”。ああ、見るたびにため息が出る。4時間前から変わっていない。いや訂正、変わっていないわけではない、増えていないだけだ。言い訳がましいのは承知だが、これはけして立ち止まっていたわけではなく、1歩進んで1歩戻るをひたすら繰り返していたのであって文字数では表せない密度が……はいはいこの屁理屈がなんの意味もなさないことも承知の上だ。今目指すべきは”終わり”。終わるために必要なのは濃密さじゃなくて文字数、すなわちあと残り16000文字。

 

『キープの関係にも温度があります……たまには…と燃やさないと…よ。そういう気分って……』

 

集中力の限界。勘違いしがちだが眠気とは大きく異なる。眠気は徒労感が眼球起点で全身を駆け巡ると同時に常世の色相をゆっくりと薄しながら、限りなく死に近いかたちで肉体運動を停止させ……まぁなんでもいいやとにかく回復を目的とした生理現象だ。しかし集中力の限界は働き者の脳みそが仕事をやめてもなおぐるんぐるんと慣性的にエネルギーが回っている状態なので、おめめや意識がはっきりしている。だが首から下がとにかく怠いし、熱いし、けど眠くはないしでとにかく煩わしい状態が続く。この気分はそう午前4時半をむかえたオール飲みってところだ。もうだめだ。

モノと化した私の肉体を背もたれに預けて、天井をぼーっと眺めながらこの惰性的脳運動が止まるまで待つことにした。

 

『はい、ではでは次のお便りにいきましょう。ラジオネームさっちゃんからです。”初めての彼氏は20歳年上で……』

 

 

※3年前に書いた独り言。

f:id:lovelive-yuki:20210529222447j:image